広告代理店のクリエイティブ – 種類、媒体による違い、職種など

広告代理店は「華やかな仕事で年収も高いけど、仕事が激務できつい」というイメージがありますが、実際に広告代理店で働く人たちはどんな仕事をしているのでしょうか?ここでは就職活動で人気の高い広告代理店のクリエイティブの仕事内容について、実際の広告代理店出身者が詳しく解説していきます。

私は広告代理店業界の中でもトップ2ではありませんでしたが、国内トップ5に入る広告代理店に3年前まで営業として勤務し、電通や博報堂などの会社との企画コンペを繰り返していました。働いていた当時を思い出しながら正直に書きますので、就職活動されている皆さんが広告代理店の仕事内容について少しでも理解を深めていただけたら嬉しいです。

1.「クリエイティブ」と呼ぶ広告表現とは何か

広告業界では一般的に、案件(仕事)の発生は、クライアントからオリエンテーション(オリエン)と呼ばれる商品説明と広告目標の説明からスタートします。商品の広告とは、こういう理由、こういう状況でこうしたい、という「説明」です。その趣旨は、しっかりしている場合もありますし、曖昧な時も多くあります。またどう考えようと自由であるという場合もあります。

そんな非常に柔らかい想いを、広告表現という形にしていくのが、クリエイティブ部門であり、クリエイティブディレクター、プランナー、コピーライター、アートディレクター、デザイナーなどの人たちです。

広告表現は、上記のような担当の人たちが面白おかしく、気軽に、さらに華やかに広告表現を制作しているようにイメージされがちですが、じっさいには非常に複雑なプロセスを踏まえながら広告表現が制作されていきます。

このプロセスをしっかりと踏まえながら、いかにクライアントのニーズを満たしつつ、広告対象となる消費者(生活者)に届く広告を作り出せるかという点がクリエイティブに関わるスタッフの腕の見せ所になります。

(これは私が代理店に居た時にもさんざん言われたことですが、)いかに広告として面白いものであっても、クライアントの納得が得られなければ全く意味がありませんし、その広告が世の中に出ることもありません。逆にクライアントが納得していても、広告としての輝きがなければ、消費者に対して広告の機能を果たすことができません。「良い広告を創れば、クライアントも消費者も満足されられる」といういわば理想だけが通じる話でもありません。

私が代理店に在籍していた頃にアンケートを取ったところ、クライアント(広告主)が広告代理店に望むもの第1位はクリエイティブ能力でした。調べてみたところ20年前からこのランキング第1位には変化がないことから、今後も広告そのもののあり方が重要視され続けていくと思います。

なにげなくお茶の間で見るTVCF、ネット広告、新聞広告、雑誌広告には、クライアントの商品に対する熱い希望と、クリエイティブに関わる者たちの複雑な計算が隠されています。よく言われるように、「たかが広告、されど広告」とはこのことです。今日もクリエイターたちは、クライアントと消費者のはざまで、新しい広告づくりに苦労しています。

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2.広告クリエイティブの種類

一口に広告・クリエイティブといっても、その目的などによって様々なタイプがあります。ここでは以下の5種類に分類して解説していきます。

(1)商品広告


商品広告は最も多い種類の広告です。売りたい、買ってもらいたいという商品があり、その商品についての情報が広告となります。商品についての情報は、例えばそれが低価格であったり、機能的であったり、デザインであったり、イメージであったりします。広告の最終目標は、いかにその商品の売り上げに貢献できるか、ということになります。もちろん、商品はカタチのあるものであったり、カタチの見えないサービスであったりします。

(2)流通広告


流通広告とは、デパートやスーパー、コンビニなど、モノを売る流通のための広告です。その店舗が商品であり、商品広告としての見方もありますが、現実的には広告表現の様々なプロセスで、商品広告とは異なる性格を持っています。広告の最終目標は、その広告によってどのくらいの来客が増え、売り上げが増えるか、ということになります。

流通広告はある意味で商品に縛られないという特性上、これまでクリエイターの優れた名作CMもたくさん生まれてきました。例えば、糸井重里氏を有名にした西武デパートの「おいしい生活」、セブンイレブンの「セブンイレブン、いい気分」などが流通広告の代表例です。

(3)企業広告


企業広告とは、企業が自分たちの方針やビジョンなどを発信する広告です。最近では人材採用に苦戦している企業も多いことから、BtoB(対企業向け商売)企業などは就職活動時期になると学生たちに自分たちの会社を知ってもらおうとTVCFを多く出稿する傾向にあります。

例えばきゃりーぱみゅぱみゅが出演する日清紡、「僕らはクロコ」の日本ガイシなど、普段生活しているとあまり目立たない製造業会社の広告などが企業広告の代表例です。

(4)公共広告


公共広告とは、営利目的のない広告です。政府や地方自治体、公共広告機構(AC)などの行う広告です。制度の変更や法律的な禁止事項の徹底、社会的マナーの訴求、ボランティア活動への参加、募金の訴えなどがこれに当たります。

例えば、東日本大震災の時に一斉に流れたために有名となったACのマナー広告や、最近では上戸彩さんが出演するマイナンバー制度の広告などが公共広告の代表例です。

(5)ウェブ広告


ウェブ広告とは、Yahooなどのポータルサイトに表示されるバナー広告はもちろん、検索結果時に表示されるリスティング広告、さらにはYoutube上にも流される動画広告など様々なものが日々登場しています。

電通が発表した2015年日本の広告費ではウェブ広告売上は初の1兆円を超え、現在はテレビに次ぐメディアにまで成長しました。今後もスマホを中心にさらに増加していくことが予想されます。

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3.メディア上でのクリエイティブ表現の違い

クリエイティブは、メディアという発表の場があって、初めて広告表現として成立します。メディアに載らないクリエイティブは、単なるプランに過ぎません。メディアに載ることで消費者(生活者)の目・耳に触れて、初めてクリエイティブは広告表現として成り立ちます。ここではメディアそれぞれについての広告表現の違い・特徴をかんたんに解説します。

(1)平面媒体でのクリエイティブ


平面媒体でのクリエイティブは、消費者が自分の意志とペースで広告情報を得ようとしてくれる特徴を持っています。消費者は能動的であり、広告が「見てくれることを待つ」受け身状態になります。消費者が興味・関心を持ったものを読み、興味を持たないものはスルーします。この特性から、より詳しい商品情報や売りたいターゲット層を絞りたい場合に有効な媒体と言われています。

平面媒体は「グラフィック」とも呼ばれ、ウェブバナーや新聞や雑誌広告、ホームなどに貼られる駅貼りポスターや社内に掲出される中吊りポスターなどの交通広告、デパートやスーパーなどで掲示されるポスターがこれにあたります。

(2)電波媒体


電波媒体とは、映像と音で伝える広告です。TVCFは15秒あるいは30秒といった限られた時間の中で、映像と音により消費者に訴えかけます。電波というメディアにのるため、基本的にはその場かぎりで終わりの一過性の広告となります。電波媒体は、平面媒体と異なり、消費者が受け身の状態となります。

ここで自分自身のことを想像してみてください。あなたは見ていた番組がCMに変わったタイミングでトイレにいったり、チャンネルを変えようとしませんか?もしくは留守録したHDレコーダーでテレビ番組を見ているとき、TVCFになるとリモコンで早送りしませんか?

つまりTVCFは消費者が受け身であるがゆえ、理解しようという態度は望めず、見てもらえるかどうかさえ分からないのです。もともと興味がなかった消費者の手を、足をとめて、思わず見てしまう状態にさせられるかどうかがTVCFの勝負どころなのです。

(3)ウェブ広告


前述したとおり、最近急激に出稿量を伸ばしているのがウェブ広告の分野です。これまではバナー広告など動きのない平面媒体としての特徴がほとんどでしたが、最近ではYoutube広告など映像や音を組み合わせた広告も一般的になってきています。つまり平面媒体と電波媒体の特徴を併せ持つ媒体がウェブ広告です。

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4.広告代理店におけるクリエイティブ部門のスタッフとは?

広告表現には、様々なスタッフが関わります。ここでは、そのスタッフのそれぞれの担当領域、役割について簡単に紹介します。現実の政策においては、TVCFなら監督・演出家、プロダクションマネージャー、照明、音声、美術などが関わり、グラフィックならカメラマンやイラストレーターが関わります。ここでは基本的に、クライアントからのオリエンからプレゼンまでを行うスタッフに限定して解説します。

(1)クリエイティブディレクター


広告表現を制作するに際し、統括する役割となるのがクリエイティブディレクターです。オリエンを理解したうえでクリエイティブ戦略を立て、広告表現のフレームを考え、制作のレールを敷き、コピーやデザインなど全体のディレクションを行う重要なポジションです。

さらにクリエイティブディレクターにとっては、社内の営業やマーケティング担当、さらにはクライアントとの意見調整、時には彼らの説得ということも仕事の一部となってきます。またクラアイントへのプレゼンでは、クリエイティブ・広告表現の説明もしなければなりません。

優れたコピーの制作はコピーライターの仕事ですし、話題となるTVCFの制作はプランナーの仕事ですが、広告展開全体をどうするのかなど全てはクリエイティブディレクターの手腕にかかっています。

クリエイティブディレクターの場合、転職やヘッドハンティングなどを除けば、入社していきなり「クリエイティブディレクター」になれる訳では当然ありません。コピーライター、アートディレクター、プランナー、プロデューサーなどの各専門分野の畑を経てから、このポジションに就くことになります。

(2)コピーライター


糸井重里氏など伝説的なコピーライターを生み出して四半世紀、一時のブームは去ったものの、広告表現の言語的な側面である「コピー」はクリエイティブにおいて重要な要素です。グラフィックでは、キャッチコピー、ボディコピーなど文字要素のすべてを担当し、TVCFではナレーションやスーパーなどを担当します。

最近ではプランナーに近いコピーライターも多いようですが、基本はその名が表す通り、コピーを書く人です。ボディコピーの書けないコピーライターは、正しいコピーライターとは呼べないでしょう。

(3)アートディレクター/アートデザイナー


グラフィック広告のアート部分、つまり「絵」の部分をディレクションするのがアートディレクターです。デザイナーは、実際にその「絵」を考えて形にするのが仕事となります。デザイナーはある程度経験を積むと、アートディレクターとしてデザイナーに対して指示するポジションに昇格することができます。クリエイティブディレクターと同様で、初めからアートディレクターという人はいません。

最近のデザインは、ほぼすべてがデジタル化されています。デザインのほぼすべてがディスプレイ上で行われています。ここから、ウェブ上の分野までその制作分野を拡げているデザイナーも一般的になっています。

(4)プロデューサー


TVCFの制作において、プランから最終の仕上げまでの進行と予算をコントロールするのがプロデューサーです。TVCFの場合、広告代理店とTVCFプロダクションとの共同作業となるが一般的です。プロデューサーは、TVCFプロダクションに属し、広告代理店への窓口になります。プロデューサーは、広告代理店によっては社内の職種として存在していることもあります。

(5)プランナー


TVCFの表現を考えるのがプランナーです。TVCFの第1段階は絵コンテと呼ばれるものの制作から始まります。TVCFという限られた秒数の中で、どのような流れになるか、というのが大体つかめるプランを作ります。プランナーは最終的にCFでの演出(映画でいえば監督にあたり、TVCFの撮影現場でも監督と呼ばれます)志望の人が多いです。
(私が携わったとあるTVCFでは、映画の助監督をやっているフリーのプランナーが担当してくれて、現場でも監督と呼ばれていました。)

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5.広告代理店のクリエイティブになるには?


では広告代理店のクリエイティブに新卒や転職で採用されるにはどうすればよいのでしょうか?もちろん「これをすれば必ず採用される!」という回答はありません。
ただし、これまで代理店にクリエイティブとして採用され、さらに活躍している人たちに共通している部分を分析してみれば、大まかな採用の方向性や傾向が見えてきます。

(1)大学・学歴


代理店のクリエイティブとして働き、さらに活躍している人たちを見てみると、美術大学の出身が多いことに気づきます。

例えば、博報堂出身で最近では三井物産や明治学院大学などのCI(ロゴ等)も手掛けた佐藤可士和氏は多摩美術大学出身、日清カップヌードルの「hungry?シリーズ」のCMでカンヌ国際広告祭でグランプリも受賞した中島信也氏は武蔵野美術大学出身など、有名なアートディレクター、クリエイティブディレクター達の多くは美術大学・学校の出身であることが多いです。

もちろん美術大学を出ていることがクリエイティブ担当としての必須条件である訳ではありませんが、基本的な美術・芸術知識、さらには具体的なグラフィック制作の実務を遂行できるという条件に当てはまるという意味で美術大学出身者が多いのだと思います。

(2)コミュニケーション力


意外に思われるかも知れませんが、代理店でクリエイティブを担う人間にとってコミュニケーション能力は非常に重要な要素です。なぜならば広告代理店のクリエイティブ担当に求められるのは、単なる芸術作品ではないからです。

代理店で広告のクリエイティブに携わる場合、クライアントの意向、さらには社内(代理店)のクリエイティブ方針など制作する上で考慮に入れなければならない要素が多くあります。

様々な人たちの思いや考えを踏まえたうえで自分自身としての表現能力を問われる場所、それが広告代理店でクリエイティブ担当の仕事なのです。時にはクライアントの意見に反論して制作の意図を理解してもらう必要もありますし、社内に対しても意見を通さなければなりません。つまりコミュニケーション能力がなくして、クリエイティブ担当は務まらず、もし働いたとしても様々な人との人間関係・利害関係に疲れてしまうでしょう。

6.代理店・クリエイティブの職場環境


結論から言えば、代理店のクリエイティブ担当の職場環境はそこまで優しいものではありません。もちろんヒマな(案件が比較的少ない)ときもありますが、案件が重なったり、コンペが続く場合には徹夜で制作作業することも少なくありません。

もちろんこれはクリエイティブ担当だけに限ったことではなく、広告代理店で働く人たち全般に言えることです。営業もマーケも、SPもみんな、案件が多い時には、寝る間を惜しんで働いてます。

7.まとめ

広告代理店のクリエイティブ担当の仕事内容についてかんたんに説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
一口に「代理店営業のクリエイティブスタッフ」と言っても、クリエイティブディレクターからコピーライター、プランナー、プロデューサーなど、職種はかなり幅広く分かれており、一概に言えないことがお分かりいただけたと思います。

広告業界にとってクリエイティブスタッフの役割は非常に大きく、プレゼン時には企画意図から実際の広告表現までを説明したり、さらにはクライアントの意向を踏まえたうえで、実際に広告を見る消費者の興味関心を引くような内容にしなければなりません。単純に「良い広告を創れば、みんなが満足する」という世界ではなく、様々な人たちの意向を汲んだうえで、自分なりの世界観も表現する、という厳しい世界でもあります。

                     

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私は有名な大手2社ではありませんが、国内上位5社に入る広告代理店で営業(アカウントエグゼクティブ)として3年前まで働いていました。その経験から、あまり世の中では語られていない広告代理店の具体的な仕事内容や実際の過酷さについて正直な記事を書いていきます。